こんにちは。設計の奥田です。
最近いろいろと考える機会があり、その中で感じたことを、ひとつの視点として整理してみたいと思います。
住宅会社の提案について。
住宅会社の提案には、大きく分けて2つの考え方があります。
ひとつは「もの」を主に伝える会社。もうひとつは「こと」を大切にする会社です。
「ものを提案する会社」は、断熱等級や耐震等級など、“数字で語れる性能”を通じて、暮らしの安心や快適さを伝えます。
提案の入りは“暮らし”を語っているようでも、実際の解決手段はすべて「もの」による提案であり、生活の課題を「仕様や性能」で解決しようとするのが、このタイプの特徴です。
情報が整理しやすく、提案も均質化できるため、ビジネスとしてはスケールしやすい反面、他社と似通ってくることで価格競争に巻き込まれやすいという弱点もあります。
一方で、「ことを提案する会社」は、出発点が異なります。
数値やスペックではなく、「この家でどんな日常が生まれるか」という体験や感覚を起点に設計が始まります。
たとえば、敷地のどこが抜けているかを読み取り、どこに窓を設ければ心地よい光や風が届くかを考える。
こうした配慮が、数字では測れない 心地よさ につながっていきます。
このアプローチは、感情に強く残ります。
空間の雰囲気や暮らし方が、言葉や図面ではなく体験として伝わるため、印象に残りやすく、施工事例にもその家ならではの“暮らしの空気感”みたいなものが出てきます。
ただ、「こと提案」は設計者の感覚や経験に大きく依存するため、再現性が低くなりがちです。
属人的になりやすく、標準化や事業のスケールには不向きな面もあります。
この「もの」と「こと」、どちらに軸足を置くかは、会社の業態にも影響しています。
設計事務所は「こと提案」の傾向が強く、暮らしの質や空間の感性に重きを置き、施主さまとの対話を通じて一棟ずつ丁寧に形づくっていきます。
一方で、ハウスメーカーやビルダーは「もの提案」に重きを置き、明快なスペックとわかりやすい価格設定が中心です。
そして、その中間に位置するのが地域工務店です。
設計事務所寄りのスタイルもあれば、ハウスメーカーに近い効率重視の会社もあり、幅の広い領域に存在しています。
そのため、「こと提案」と「もの提案」のどちらにも振り切れていない中間的な立ち位置の会社は、ぱっと見でどちらのタイプなのか伝わりにくくなり、「良いことをやっているのに伝わらない」「満足度は高いのに選ばれにくい」といった状況に陥りやすくなります。
これから住宅会社を選ぶとき、自分たちは「もの」の提案に惹かれるのか、「こと」の提案に惹かれるのか、
そのあたりを少し意識して見てみると、あとから提案内容とのギャップに戸惑うことも少なくなるかもしれません。

写真は別府にあるコミコアートミュージアムという美術館の、何気ない一角の風景。
「窓の外の景色をきれいに魅せる」ために、床のタイル割りを基準にして開口部のサイズや壁の位置が決められていて、余計な要素が目に入らないように工夫されています。
天井設備の配置や壁・床・天井の見切り方等々、細部まで計画されていて「体験の質を起点に空間をつくる」とはこういうことなんだなと感じます。
設計/奥田 渉