こんにちは。設計の奥田です。
家づくりのお打ち合わせをしていると、多くの方がこうおっしゃいます。
「とにかく広いリビングが欲しいんです」 「部屋数はできるだけ多く確保したい」
一生に一度の家づくりですから、「広さ=豊かさ」だと感じてしまうのは自然なことです。
でも、最近感じるのは、延床面積が限られている「小さな家」こそ、工夫次第で居心地の良い住まいになるということ。
その鍵となるのが、「居場所のデザイン」です。
人間は、ただガランと広い場所に放り出されると、落ち着かないことがあります。
物理的な広さではなく、心がホッとする「自分だけの居場所」。それが本当に求めているものではないでしょうか。
特に、建坪が限られる都市部の住宅やコンパクトな家において、この「居場所」の概念は重要になってきます。
「居場所」とは、壁で囲まれた「個室」のことではありません。 家の中にある、「つい、そこにいたくなるスポット」のことです。
例えば、
・窓際に腰掛けられるスペース。外の景色を眺めながらコーヒーを飲む、窓辺のベンチ。
・階段下の小さなおこもりスペース。本を読んだり、スマホをいじったりするには、この「狭さ」が逆に落ち着く。
・家族の気配を感じながらも、少し視線が抜けるワークスペース。
これらは「部屋」としてカウントされませんが、生活の満足度を大きく左右する重要な「居場所」です。
大きな家であれば、物理的な距離でプライバシーを保てます。しかし、コンパクトな家ではどうしても家族同士の距離が近くなる。
だからこそ、心理的な距離感をデザインする必要があります。
壁で仕切って狭くするのではなく、段差をつけたり、照明の明暗を分けたり、家具の配置を工夫したり。そうやって家の中にいくつもの「小さな居場所」を散りばめていく。
そうすると、同じLDKの中に家族がいても、お父さんは窓辺で読書、子供はヌックで遊び、お母さんはダイニングでくつろぐ……
「同じ空間にいるけれど、それぞれの時間を楽しんでいる」。そんな心地よい距離感が生まれます。
家を大きくしようとすれば、当然コストは跳ね上がります。
家のサイズを少し抑えて、その浮いた予算で「最高の居場所」を作るための造作家具や、肌触りの良い素材にお金をかける。そうやって完成した家は、単に広いだけの家よりも、暮らしの密度が高くなる。
「土地が狭いから…」と諦める必要はありません。
むしろ、小さいからこそ、隅々まで手の届く、あなただけの特別な「居場所」をデザインする。
広さという数字にとらわれず、「どこに座って、どんな時間を過ごしたいか」。
そんな視点で、家づくりを考えたいと思っています。
設計/奥田 渉
